ウクライナ戦争と「正義」について

ふたつの見方

ロシアがウクライナに侵攻してからほぼ1ヶ月になる。現地ではウクライナ側の民間人にも日々多数の犠牲者が出ている悲惨な状況だ。

この戦争はブラジルでも連日トップニュース扱いで伝えられている。恐らく、世界中(一部の国は除く)で同じような報道がされているのではないだろうか。

筆者が見る限り、この戦争への見方は大きく2つあるように感じる。

  1. ウクライナを100%「善」と規定し、ロシアを100%「悪」と規定する見方
  2. ウクライナは「善」だが100%ではなく、ロシアは「悪」だが”一分の理”があるとする見方

どちらの見方も国際法を犯し国家主権を無視して戦争を始めたロシアを「悪」と規定していることに留意してほしい。

筆者は2つ目の見方をとっていて、エコノミストの鈴木さんの意見に近い。彼のツイートは、言葉は荒っぽいけど的を得ていると思う。

1つ目の見方は、筆者から見たら少し情緒的すぎるように思う。まぁ毎日毎日ウクライナの市民が犠牲になっていくのをテレビ報道で見せられるとどうしても同情して、被害者側にのみ「正義」があるように感じるのは理解できるが。

ただ、キエフに残って命懸けで徹底抗戦を呼びかけるゼレンスキー大統領を正義のヒーローのように持ち上げるのは全然納得できない。

そもそもロシアが侵攻するに至る経緯を見てみると、ゼレンスキー大統領の挑発や判断ミスが数多くあった。裏を返せば、彼がまともな感覚を持った政治家であればこの戦争は未然に防げたはずだ。もちろん、一義的にはロシア(プーチン大統領)の責任大ではあるが、ゼレンスキー大統領にも相応の責任があったと言わざるを得ない。

愛国心を煽り、自国民に徹底的に戦うこと、つまり「死」を強いるようなことを平気で行い、それを美化するなど言語道断だ。国民の命を守るべき一国のリーダーが絶対にやってはならないことだと思う。太平洋戦争における日本軍のスローガン「1億玉砕」を思い起こさせる最低のやり方だ。

また、民間人が武器を持って戦うならば、もはや彼らは民間人ではなく兵士と同じだ。つまり、ロシア側に民間人を狙って攻撃する口実を与えてしまっている。

この時期に彼がリーダーだったのはウクライナにとってつくづく不幸なことだった。

ロシアに理はあるか?

世界中から袋叩きにあっているようなロシアだが、果たして彼らに理はあるのか?

筆者はロシアにも「一分の理」はあると考える。

これは語りだしたら長くなってしまうので、まずはそれに関する動画を貼っておく。

ちなみに、動画内でも言及されているが、NATOは下図のように拡大を続けてきた。

NATOというのはロシアを仮想敵国とした軍事同盟なので、国境を接する国々がNATO入りすることは、ロシアにとっては安全保障上の重大な脅威であることは間違いない。

日本に例えれば、韓国と台湾が中国と軍事同盟を結び、日本を敵国認定したようなものだ。まぁ日本は島国で海に囲まれている分、切迫感はあまりないかもしれないが、陸続きで国境を接する場合、かなりの脅威を感じるはずだ。

NATOの東方への拡大

1962年のキューバ危機では、安全保障上の危機だとしてアメリカは力ずくでキューバへのソ連製ミサイル配備を阻止した。そこではキューバの主権など一顧だにされなかった。構造は全く同じである。そのアメリカが立場が変われば、ロシアの安保上の懸念よりもウクライナの主権を重視するのは悪い冗談としか思えない。

歴史を俯瞰すると、20世紀に世界で最も苦渋を舐めたのはロシア人だった。日露戦争の敗戦に始まり、ロシア革命とそれに続く内戦、第一次世界大戦、スターリンによる大粛清、第二次世界大戦、その後の東西冷戦と経済の停滞、ソ連の崩壊(共産主義実験の大失敗)と言葉にならないほど苦しんできた。ロシア文学が重く暗いのにも理由があるのだ。

特に第二次世界他大戦では、当時のナチス・ドイツに侵略され、独ソ戦で少なく見積もっても2000万人以上という途方も無い犠牲者を出した。ひとりの命が重いのだとしたら、この数字の重さはどれほどのものだろう。その独ソ戦で戦った相手のドイツは今のNATOの主要な構成国だ。

NATOや西側諸国はこれまで、ロシアの危惧に対して何らかの配慮をしてきただろうか。冷戦という名の戦争に負けたロシアを見下し、彼らの要求を軽く扱ってこなかっただろうか。

繰り返すが、筆者はロシア(プーチン大統領)を擁護している訳ではない。この戦争は国際法を犯し国家主権を無視して戦争を始めたロシアに非があるのは当然だ。ただ、ロシアにはロシアの事情があり、戦争をしたくてしているわけではなく、そこに「一分の理」はあると言いたいだけだ。

「正義」は何処にあるのか?

戦争においては、どの国も自国の「正義」を主張する。

世界中のほとんどの国の人達は、ロシアは侵略者でウクライナにのみ「正義」があると信じている。しかし、当たり前だがロシア人たちは自国の「正義」を信じて疑わない。

80年前の日本も同じような状況だった。当時の日本人たちは自国の「正義」を疑わなかった。満州建国も日中戦争も太平洋戦争も、アジアを開放するための戦いで、自存自衛の戦いだと信じていた。しかし、世界中の大多数の国にとっては「正義」は別にあり、日本のやったことは侵略でしかなかったのだ。

だから「正義」を語ることにはあまり意味がない。「正義」はどちらにもあると言えるし、どちらにもないとも言える。

ひとつだけ確かなのは、結局、戦争に勝った側の「正義」だけが広く世界に受け入れられてゆく現実があるということだ。それは、勝てない戦争はするべきでないということでもある。

その意味でも、勝つ見込みのない戦争を始めてしまった(ロシアに始めさせてしまった)ことは取り返しのつかない失敗だった。

停戦・和平合意の可能性

さて、開戦から日が経つに従い、双方の(特にウクライナ側の)被害が甚大になってきている。

報道では、ロシア軍の士気低下やグダグダぶり、プーチン大統領の精神異常説などなど、ロシアは行き詰まっていて終戦も近いとのデマが溢れているが、そんなものは単なる願望であってなんの根拠もない。そもそもロシア軍がグダグダなのは今に始まったことではなく、グダグダであろうが粘り強く戦い決して諦めないのもまたロシア軍だ。

また、プーチン大統領は核のボタンは絶対に押さない。押したが最後、NATOが参戦するのが目に見えているからだ。彼は彼なりに合理的判断が出来る精神状態を保っていると筆者は見ている。

交渉で何らかの合意を目指す動きがある。もちろん、合意できるのならそれに越したことはないが、そう簡単なことではないだろう。

特に戦争を優位に進めているロシアは条件のハードルがかなり上がってしまっている。中途半端な合意はプーチンの失脚を意味するため、相当ロシアに優位な条件でないと合意には至らないだろう。

合意する条件を筆者なりにちょっと予想してみる。

  1. ウクライナの完全な中立化(つまりNATOにもEUにも加盟しないこと)
  2. ゼレンスキー大統領の失脚と身柄の確保(または国外追放)
  3. 新ロ傀儡政権の擁立
  4. クリミア半島のロシア編入を認めること
  5. 東部2共和国の独立承認

この内、1,4,5はロシアとしては絶対に譲れない条件だろう。ウクライナと交渉可能なのは残る2と3だけではないか。

2について言えば、ゼレンスキー失脚は当然として、彼の身柄をどうするかということ。落とし所は国外追放か。

3については、西側が望むような民主的な選挙で選ぶことはありえない。新しいリーダーを誰にするのか、話し合いはかなり難航するのではないか。誰が選ばれるにしても新ロ的な人物になるのは避けられないと思う。

ウクライナにとってはかなり酷な内容となるだろう。合意はゼレンスキー大統領がどこまで条件を飲めるかにかかっている。

以上は、今の戦況が続いた場合こうならざるを得ないだろうという筆者の単なる予想に過ぎないことを断っておく。

最後に

21世紀になって、辺境とはいえヨーロッパの一角でこのような大規模な戦争が勃発するとは思いも寄らなかった。テクノロジーや人権思想の進歩が大局的には平和な世界をもたらすと勝手に思い込んでいた。

そんな思い込みを、今回の戦争は木っ端微塵に吹き飛ばしてくれた。人間の本質はそう簡単には変わらないのだ。

冷静に考えれば、世界はパックス・アメリカーナの中にあり、(国力が落ちたとはいえ)アメリカの軍事力によって世界の平和が維持されているのが現実だ。時代が変わっても、力(軍事力)というのは世界を規定する最も重要な要素のひとつなのだ。

ここ数年のコロナ禍で世界は不安定になった。それに追い打ちをかけるかのように、この戦争により世界はより不安定になり、私達の日常生活にも大きな影響を及ぼしている。

戦争が終わり、一日も早くウクライナに平和が訪れることを切に願っている。