Você Não Vale Nada♪

フォホー(Forró)は、主にブラジル東北部で絶大な人気のある音楽で、南東部のサンバと並んでブラジル人の情緒を肌で感じることのできる音楽でもあります。ちなみに、日本や世界で人気のあるボサノヴァやMPBはこちらではマイナー音楽です。

今年2月23日、Calcinha Preta(黒いパンティー)という有名なフォホーバンドの女性メンバーのひとり、Paulinha Abelha (パウリーニャ・アベーリャ)さんが亡くなりました。死因は腎不全、享年43歳でした。合掌。

筆者はこのバンドのファンではないのですが、2009年にノヴェラ(ブラジルのドラマ)の中で使われて大ヒットした表題の曲はとても印象に残っています。

冒頭の『Você não vale nada, Mas eu gosto de você!』(お前なんかくそったれ!でもなぜだか好きなんだ!)というフレーズが一時期は耳にこびりついて頭の中でやばいくらいリフレインしていましたね。(^_^;)

ちなみに、亡くなったPaulinha Abelhaさんはビデオの中では、歌っている女性ではなくて、横でダンスを踊っている方の女性です。

いちおうポル語歌詞と拙訳を付けておきます。

※だいぶ適当に意訳しています。間違いがあったら指摘していただけるとありがたいです。

Você Não Vale Nada
Calcinha Preta

Você não vale nada
Mas eu gosto de você!
Você não vale nada
Mas eu gosto de você!
Tudo que eu queria
Era saber por que
Tudo que eu queria
Era saber por que

Você brincou comigo
Bagunçou a minha vida
E esse sofrimento
Não tem explicação
Já fiz e faço tudo
Tentando te esquecer
Vendo a hora morrer
Não posso
Me acabar na mão

Seu sangue é de barata
A boca é de vampiro
Um dia eu lhe tiro
De vez do meu coração
Aí já não lhe quero
Amor, me dê ouvidos
Por favor me perdoa
Tô morrendo

Eu quero ver você sofrer
Só pra deixar de ser ruim
Eu vou fazer você chorar
Se humilhar
Ficar correndo
Atrás de mim

Você não vale nada
Mas eu gosto de você!
Você não vale nada
Mas eu gosto de você!
Tudo que eu queria
Era saber porquê?
Tudo que eu queria
Era saber porquê?

Você Não Vale Nada
カウシーニャ・プレタ

お前なんかくそったれ
でもなぜだか好きなんだ
お前なんかくそったれ
でもなぜだか好きなんだ
いったいなんでなんだ
それがずっと知りたかった
いったいなんでなんだ
それがずっと知りたかった

俺を弄んで
人生を台無しにしてくれた
この苦しみは
とても話せるもんじゃない
お前を忘れるために
いろんなことをやってきた
死にたくても
とても死ねるもんじゃない

お前の血は冷たい
口は悪魔のくち
いつの日かすっきりと
心から拭い去りたい
そして、もういらない
愛する人よ、聞いてくれ
お願いだ許してくれ
もう死にそうなんだ

あなたが苦しんでいるのを見たいの
悪さをするのをやめるために
あなたを泣かせるわ
屈辱をあたえるわ
私の後をお追いかけさせるわ

お前なんかくそったれ
でもなぜだか好きなんだ
お前なんかくそったれ
でもなぜだか好きなんだ
いったいなんでなんだ
それがずっと知りたかった
いったいなんでなんだ
それがずっと知りたかった

ブラジルは階級社会でもあり、上流、中流、庶民では、ライフスタイルはもちろん人間関係なども大きく違ってきます。この曲は一番のボリュームゾーンである庶民のベタベタした濃い関係性をストレートに表現しているように思います。

「お前なんか大嫌いや、でも好きやねん!」みたいな、好きと嫌いが入り混じった微妙な心理が面白いですね。結局、愛は理屈じゃないと、好き嫌いを超えて最高のラブソングに仕上がっています。

こういう設定なら日本人だとお涙頂戴の演歌とか侘び寂びの世界に入って行きがちのところ、踊りながらシャウトして笑い飛ばしてしまう明るさがいかにもブラジル人っぽくて痛快です。

だいたい普通は男性が傷つける側で女性は傷つけられるというパターンが多いのですが、この曲では逆になっています。一見、マッチョな国の代表みたいなブラジルですが、実はこれ、結構あるあるなんですよね。女性がだらしなくて浮気して男性が傷つきながらも追いかけるっていうの。女々しい男とも言えるし、深い愛情を持った男とも言えます。最後は悲劇で終わることも珍しく有りませんが。

ブラジル人にとっていちばん大事なものは、AMOR(愛、愛情)です。その対象は恋愛だけでなく、家族、親族、所属する組織などにとどまらず、支持政党やサッカーチームにまで及び、その輪の中に浸っていると極上の幸福感に包まれます。

こう書くと良いことのように思えるかもしれませんが、そうは問屋が卸しません。ブラジルに蔓延する汚職の根っこにはAMOR(愛、愛情)があったりするのです。つまり自分の愛する人達に利益をもたらすことが「愛の証明」だという考え方です。これはブラジルの文化といっても過言ではありません。

また、上手くいかなくなると歯車が逆回転して「深い愛」は「激しい憎しみ」へと容易に転化します。サッカーのサポーターが大きな試合に負けると暴徒化したりするのはそういうことです。

個人的には、そういった濃い人たちと接しているうちに、人生観が大きく変わった気がしています。