モノ作りニッポンを憂う

この国(ブラジル)に長く住んでいると、メイド・イン・ジャパンの「品質」はほんとうに輝いていて眩しくみえる。だから日本に一時帰国するときはスーツケース一杯に家電製品や雑貨などを詰め込んで持ってくる。モノ作りの「品質」に於いて日本は今でも超一流であることは疑いようがない。

近年、韓国や台湾、中国の追い上げを食らって斜陽化している感のある日本の製造メーカーだが、決して「品質」で劣っている訳ではない。では何で負けているのか。一言で言うと海外での「マーケティング」で圧倒的に負けている。それが今の結果につながっている。

10年前、ブラジルでの市場シェアがほぼゼロだった現代自動車は大胆な広告戦略をとった。今でもよく覚えているが、主要な新聞には毎日全面広告をうち、雑誌も現代自動車の広告で埋め尽くされた。テレビCMは「現代自動車は世界一」を繰り返す悪趣味なものが大量に投入された。

ほとんど売上の無い状況で、長期間に渡り採算を度外視して広告を打ちまくる。こんなものが上手くいく筈がないと誰もが思っていたし、僕もそう思った。しかしその予想は見事に外れ、10年後の今では、現代自動車の市場シェアはトヨタ自動車を超え、日系トップのホンダと並ぶまでに成長した。

もちろん現代自動車の成功の要因は広告だけではなかった。品質的にもデザイン的にも日本車と遜色のない車種を、しかも日本車より若干安い価格で投入してきた。さらに常識はずれの「5年間車体保証」を付けたことで、ブラジル人消費者のハートをがっちりと掴んでしまった。

トヨタが満を持して投入した小型車ETIOSも苦戦している

家電製品メーカーのサムスンやLGは、大枚をはたいてブラジルの人気サッカーチームのスポンサーになったことで、サッカーを愛するブラジル人の間に急速に浸透した。今は変わっているかも知れないが、実際にコリンチャンスのスポンサーはかなり長期間サムスンだったし、サンパウロFCはLGだった。

一方の日本勢はというと、製品ごとの例えばホンダのシビックのような単発ヒットはあったものの、広告を含め大きな販売戦略のようなものが全く感じられなかった。韓国・中国勢のやっていることを、ただ指をくわえて見ていたような印象がある。そして気がついた時には、遥か後方にいたはずのライバルに並ばれたり、逆転を許したりしている。

もう一度言うが、日本は「品質」で負けたのではなく、「マーケティング」で負けた。言い換えると「現場」の力不足ではなく、「経営」の能力不足によって負けたとも言える。何かに似ていないだろうか?そう、「兵隊」は優秀でも「参謀」の無能によって負けた先の戦争だ。そういう意味で日本人は何も変わっていないのかもしれない。

勘違いしないでほしいのだが、だから日本は駄目だと言いたい訳ではない。それどころか、日本の物作りにおける「品質」の高さは今でも一級品であるということを言いたいのだ。これだけの「品質」で物作りをしている国が、世界中でどれだけあるのかを考えてみれば分かる。

大事なことは「経営」失敗の責任を「現場」押し付けないこと。事業戦略を変えずに精神力でカバーしようとしないこと。「経営」の失敗を認め「マーケティング」を大胆に変えていくことに尽きる。

日本の会社は、実はとても民主的な組織だ。だから創業者社長を別にすると、全社的にまんべんなく気配りのできる人が社長が選ばれる傾向がある。そうなるとコンセンサス重視になって出血を伴うような大きな改革ができない。

ではどうすれば変えられるのか?

一つのヒントは池田信夫の言うところの「約束を破るメカニズム」の導入であろう。日産自動車の例では、社外から登用されたカルロス・ゴーン氏は社内に何のしがらみもなく、思いきり大なたを振るい大きな改革をすることができた。

このように強力なリーダーを外部から登用するというのは一つの有力な選択肢だと思う。まぁ問題は、彼のような人材がなかなかいないということでもあるのだが。

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